3.ワンピース『ONE PIECE』

【115巻SBS】グロリオーサ(ニョン婆)のモデルと悲恋の真実「ロジャーへの恋」

『ONE PIECE』の広大な世界において、女ヶ島アマゾン・リリーの先々々代皇帝であり、現在はコミカルなご意見番として親しまれている「ニョン婆」ことグロリオーサ。長らく「主人公を導く老婆」という記号的な立ち位置であった彼女だが、最終章に突入し、エルバフの過去編や最新の単行本SBS(115巻)を通じて、その壮絶かつ情熱的な過去が次々と明かされている。

かつて絶世の美女として海を魅了した彼女は、なぜ現在のようなシワシワの姿になったのか?彼女が患った「恋い焦がれ死に」の意中の相手とは誰だったのか?そして、なぜ最強最悪の「ロックス海賊団」に身を置いていたのか?

本記事では、SBS 115巻で尾田栄一郎氏が明かした「キャラクターモデルの秘密」と、本編で描かれた「九蛇海賊団とロジャー海賊団の知られざる接点」という二つの強烈な事実を掛け合わせ、グロリオーサという一人の女性が歩んだ苛烈なライフストーリーと、尾田氏が描く「美と老い」の深い哲学について、徹底的に考察していく。

1. 荒波の海に咲く高嶺の花:当時の「九蛇海賊団」の絶大なアイドル性

まずは、かつての海において九蛇海賊団がどれほどの存在であったかを紐解いていこう。海賊といえば、むさ苦しい荒くれ者たちが血で血を洗う覇権争いを繰り広げるのが常である。しかし、そんな殺伐とした海において、圧倒的な異彩を放つ「アイドル」が存在した。それこそが、世にも珍しき女人国からやってきた男子禁制の強く麗しき海賊団、『九蛇海賊団』である。

当時の九蛇の人気は凄まじく、この時代を語る上で絶対に外せない存在となっていた。全荒くれ者たちにとって、彼女たちは手の届かない「高嶺の花」。美しく、そして強い彼女たちの手配書は闇市場で高額で取引され、航海中の盗撮や執拗な追跡は日常茶飯事であったという。海軍ですら、彼女たちのその特異な影響力と強さには手を焼くばかりだった。

歴代アマゾン・リリー皇帝と「恋煩い」の対象
世代 キャラクター名 惚れた男(恋焦がれ死にの対象)
現代 ボア・ハンコック モンキー・D・ルフィ
先代 トリトマ 不明(※恋焦がれ死に至り命を落とす)
先々代 シャクヤク(シャッキー) シルバーズ・レイリー
先々々代 グロリオーサ(ニョン婆) ゴール・D・ロジャー

アマゾン・リリーの皇帝は、一国の主であると同時に九蛇海賊団の船長を兼任する。無類の強さを誇る彼女たちだが、男子禁制という特殊な環境で育つため、外海の男子に対する免疫が全くない。そのため、一度恋に落ちると感情のコントロールができず、心身を蝕まれ死に至る「恋焦がれ死に」という不治の病(恋煩い)を抱えている。

先代のトリトマがこの病で命を落としたように、皇帝にとって「恋」はまさに死と隣り合わせの猛毒である。しかし、歴代の皇帝たちは抗えぬ運命のように、外海の強者たちに心を奪われていった。そして過去編により、シャクヤクが冥王レイリーに、そしてグロリオーサが海賊王ロジャーに惚れていたという、運命の糸が絡み合うような衝撃の事実が判明したのである。

2. ロジャーを巡る残酷なトライアングル:美の頂点「シャクヤク」の存在

若き日のグロリオーサは、間違いなく当時の海を代表する絶世の美女であった。皇帝としてアマゾン・リリーと九蛇を率いた彼女の美しさは、世間でも広く知れ渡っていた。彼女に想われて嫌な男など、この世に一人として存在しなかっただろう。

しかし、彼女の恋が実ることはなかった。なぜなら、彼女が愛したゴール・D・ロジャーの視線の先には、常に「別の女」がいたからだ。それこそが、グロリオーサの部下であり、後の先々代皇帝となる副船長・シャクヤクである。

【副船長シャクヤクの圧倒的魅力】

グロリオーサの美しささえ凌ぐと言われた、当時の花形にして「美の暴力」。誰かが言った。「彼女の一挙手一投足が誘惑である」と。シャクヤクを目の前にすると花々は散り、鳥は歌を忘れ、人々は我を忘れて争いを始めたという。強者たちは彼女の前にひれ伏し、醜態を晒し続けた。後に女帝を冠する彼女の人気は、もはや誰も手のつけられない別次元へと達していた。

なんという残酷な皮肉だろうか。皇帝であるグロリオーサの傍らには、自身の美しさすらも霞ませてしまうほどの圧倒的な魅力を持つシャクヤクが常にいたのである。グロリオーサがどれほど分かりやすいアタックを仕掛けても、ロジャーはそれを疎ましそうにあしらい、グロリオーサを押し除けてでもシャクヤクに熱視線を送っていた。ロジャーは本気でシャクヤクの身柄を奪おうとするほど、彼女に惚れ込んでいたのだ。

結果として、ロジャーの恋もまた実ることはなかった(後にポートガス・D・ルージュと結ばれる)。そしてシャクヤクの心はロジャーの右腕であるレイリーへと向き、二人は現代においてシャボンディ諸島で共に暮らしている。

ただ一人、愛する男からも見向きされず、部下であるシャクヤクに圧倒的な敗北感を抱き、恋煩いという死の病に侵されていったグロリオーサ。その心中は、想像を絶するほどの悲しみと絶望に満ちていたに違いない。

3. 決死の覚悟:なぜ彼女は「ロックス海賊団」へ加入したのか

恋煩い(恋焦がれ死に)を生き延びるための唯一の解決策は、「国を捨てて外海へ出る」こと、そして「恋した相手の側にいる」ことである。ハンコックがルフィを追って島を出たように、グロリオーサもまた、命を繋ぐために皇帝の座を捨て、アマゾン・リリーを飛び出した。

しかし、ここで最大の疑問が生じる。なぜ彼女は意中の相手であるロジャーの船ではなく、当時ロジャーと激しく敵対していた最強最悪の「ロックス海賊団」に身を置いたのだろうか? 38年前のゴッドバレー事件の回想において、若き日のグロリオーサが白ひげやビッグ・マムらと共にロックスの船に乗っていた描写は、読者の度肝を抜いた。

その答えは、前述の「シャクヤクの存在」を考えれば悲しいほどに腑に落ちる。ロジャーの目にはシャクヤクしか映っておらず、グロリオーサがロジャー海賊団に入団することなど到底許されなかったのだ。あるいは、愛する男が別の女(しかも自分の部下)を熱烈に追いかけている様を、同じ船の上で毎日見せつけられるという地獄に、彼女のプライドが耐えられなかったのかもしれない。

では、どうすればロジャーの側にいられるのか。彼女が導き出した狂気の沙汰とも言える結論、それは「ロジャーの最大の敵の懐に入ること」だったのではないだろうか。ロックス海賊団にいれば、必然的にロジャー海賊団と衝突する機会が増える。激しい殺し合いの戦場であっても、ロジャーの顔を見ることができる。ロジャーと同じ海で、同じ時代を、最も近い距離で生きることができる。

シャクヤクから離れつつ、命を賭してまでロジャーと交わる道を選ぶ。世界を脅かす凶悪なロックス海賊団への加入は、野心でも金でもなく、一人の女の「愛する男を一目見たい」という悲壮なまでの恋心に突き動かされた結果だったと考察できる。これほどまでに重く、深い愛の形があるだろうか。

4. SBS 115巻で明かされた真実:モデルは伝説の女優「ブリジット・バルドー」

そして時は流れ、絶世の美女だったグロリオーサは、背が縮み、シワだらけのコミカルな「ニョン婆」へと姿を変えた。この激しすぎる容姿のギャップについて、最新のSBS 115巻にて尾田栄一郎氏から衝撃の事実が明かされた。

読者からの質問に対し、尾田氏はグロリオーサのモデルが、フランスの伝説的女優「ブリジット・バルドー」であることを公式に認めたのである。

「その通りです!よく気づきましたね!!(中略)そもそもニョン婆は『美しい女性が年をとるとどうなるか』というコンセプトを元に特徴を参考にしたので、あのフランスの女優の若い頃と晩年をモデルにしているんです!」(SBS 115巻 尾田氏の回答より抜粋)

ブリジット・バルドー(愛称:B.B.)は、1950〜60年代にマリリン・モンローと双璧をなす世界的なセックス・シンボルとして一世を風靡した絶世の美女である。ブロンドの髪、ぽってりとした唇、小悪魔的な魅力で世界中を熱狂させた。しかし彼女は、人気絶頂の約40歳で映画界をあっさりと引退し、動物愛護活動家へと転身する。そして、美容整形などに頼って若さに執着することなく、「ありのままのシワや老い」を受け入れて信念に生きる道を選んだのである。

このバルドーの生き様は、グロリオーサの人生とあまりにも完璧にリンクしている。

  • 美の頂点からの唐突な引退: バルドーが人気絶頂で映画界を去ったように、グロリオーサもまた、美しく強い皇帝の座を若くしてあっさりと投げ捨てた。
  • 恋に生きる情熱: バルドーが「恋多き女」として自由奔放に生きたように、グロリオーサもまたロジャーへの叶わぬ恋のために全てを捨てて海へ出た。
  • 自然のままの老い: 若さに執着せず自然に年を重ねたバルドーのように、グロリオーサもまた、過去の美貌にすがることはなかった。

5. 尾田栄一郎の「美と老い」の哲学:シャクヤクとの対比

『ONE PIECE』において、尾田氏は「老い方」に関する独自の哲学を一貫して描いてきた。「夢や信念を持ち続けている人」は年をとっても美しくカッコいいままだが、「夢を失ったり、心が歪んでしまった人」は姿形が醜く崩れてしまうという法則である。

では、シワシワのニョン婆になってしまったグロリオーサは、心が歪んでしまったのだろうか? 決してそうではない。彼女は今でもアマゾン・リリーを深く愛し、天竜人の奴隷から逃げ帰ったハンコックたち三姉妹を匿い、育て上げた愛情深い人物である。

ここで、かつての恋のライバルであったシャクヤク(シャッキー)と比較してみよう。現代のシャクヤクは、レイリーという愛する男と結ばれ、年齢を感じさせない圧倒的な美貌と若さを保っている。彼女の恋は成就し、満たされた人生を送っているからこその「美しい老い」である。

対するグロリオーサの老いは、「執着を手放した人間の、ありのままの老い」である。ロジャーへの壮絶な片思いを終え、ロジャーが処刑された後、彼女はおそらく自分自身の「女」としての人生にも見切りをつけたのだろう。絶世の美女であった自分、皇帝であった自分、愛に狂った自分。そのすべての呪縛から自らを解放し、次世代(ハンコックたち)を導き守る「長老」としての役割を受け入れた。

若さや美貌への執着を潔く捨て去り、自然の摂理のままに年を重ねた結果が、あの愛嬌のある「ニョン婆」の姿なのだ。それは決して「歪み」などではなく、ブリジット・バルドーが実践したような、信念を持った女性の「もう一つの美しく尊い老い方」を表現したものに他ならない。

結び:悲恋の果てに得た「本当の強さ」

SBS 115巻で明かされた「ブリジット・バルドー」というモデルの秘密。そして、過去編で語られた九蛇海賊団の絶大な人気と、ロジャー、シャクヤク、グロリオーサが織りなす残酷な恋のトライアングル。

これらを一つに繋ぎ合わせた時、かつてロックスの船に乗っていた美女が、なぜシャボンディ諸島でレイリーやシャクヤクと顔を合わせることを避け、女ヶ島の片隅で静かに余生を送ろうとしていたのか、そのすべての行動に重厚な意味が生まれてくる。

グロリオーサは、恋に敗れ、地位を失い、美貌も手放した。しかし、その壮絶な人生の果てに、彼女は「愛する国と次世代を守り抜く」という何にも代えがたい使命と、本物の強さを手に入れたのである。

一人のキャラクターの「顔のシワ」一つに、これほどまでに深く、切なく、そして情熱的な女のドラマを隠し持つ『ONE PIECE』。尾田栄一郎という作家の人間観察の深さと、緻密に計算されたキャラクター造形には、ただただ感嘆するばかりである。

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