ワンピース考察 『ロキの箝口令』ハラルド死亡後のエルバフのヘイトを引き受けた
ロキの箝口令:大悪党に隠されたエルバフ最大の自己犠牲
『ONE PIECE』第1172話において、長きにわたりエルバフ国内で語り継がれてきた「アウルスト城の悲劇」の真実がついに明かされた。伝説の悪魔の実を奪い、実の父親である王を殺害した「呪いの王子」ロキ。エルバフの民から蛇喝のごとく嫌われ、大犯罪者として鎖に繋がれていた彼の凶行は、すべて国と父の尊厳を守るための、あまりにも悲痛な自己犠牲(フェイク)であった。
本記事では、14年前のアウルスト城で一体何が起きていたのか、国内に広まった事件の概要と真実の対比、そしてロキが自ら泥を被り「大犯罪者」となる道を選んだ真意について、徹底的に考察していく。
捏造された大罪とアウルスト城の真実
エルバフ国内に広まっていた事件の概要と、今回明かされた真実には、180度の乖離が存在する。ロキが犯したとされる大罪は、すべて彼以外の要因(イムの支配と父ハラルドの悲壮な決断)によって引き起こされたものであった。
| 国内に広まっていた事件の概要 | 14年前の真実(事実) |
| ロキが王家に伝わる禁断の悪魔の実を私欲で奪った | ロキは悪魔の実を食べた。しかしそれは奪ったのではなく、父ハラルドの明確な指示によるものだった。 |
| ロキが王位や力を求めてハラルドを殺害した | ロキはハラルドを殺した。しかしそれは、世界政府の支配により誰も止められない暴走状態に陥った父を、ハラルド自身の懇願によって止めた(介錯した)結果である。 |
| 王家の兵士惨殺とヤルルの重傷もロキの凶行 | 実際には全て、イムに操られ正気を失ったハラルド自身の犯行である。 |
| 悪魔の実を奪うためという動機の上でのロキの反逆 | すべての発端はロキの反逆ではなく、イムに操られエルバフを滅ぼしかけたハラルドの暴走である。 |
元々、粗暴な振る舞いから大犯罪者として国中から非難を浴びていたロキだったが、この14年前の事件に関して言えば、彼は実質的に「エルバフを救った真の英雄」と言って良いほどの立ち回りを見せている。もしあの場にロキがいなかったら、あるいはロキが悪魔の実を食べる決断を下せなかったら、他の誰一人としてハラルドを止める事は出来なかっただろう。ロキは、世界最強の軍事国家エルバフが世界政府の使い捨ての奴隷軍へと堕ちるのを、文字通り寸前で食い止めたのである。
もちろん、イムの強烈な支配(深海契約)に抗い、正気を失いかけながらも最後の最後までエルバフの未来のために足掻き、息子に自らの死を託したハラルドの精神力も凄まじい。しかし、親殺しという最大の禁忌を背負ってでも国を救い、その後の全責任をたった一人で抱え込んだロキの強靭な精神力と覚悟こそが、この悲劇において最も特筆すべき点である。
ギャバンとヤルルの戦慄:光輝の王ハラルドの絶望的な脅威
事件の直後、当事者として現場に居合わせたスコッパー・ギャバンとヤルルは、ロキの残した途方もない功績を肌で理解し、高く評価していた。彼らの反応を見れば、暴走したハラルドがいかに絶望的な脅威であったかがよくわかる。
ギャバン
ハラルドがこのまま城を出て
世界を滅ぼすのではないかと
そんな絶望の世界すら見えた
傷ついても再生を繰り返すあの体を
まさか止める方法があったとは
ヤルル
今日ここにロキが居なかったらと思うと背筋が凍る
かつて海賊王ゴール・D・ロジャーの左腕として新世界を駆け抜け、神の騎士団とも幾度となく激闘を繰り広げてきた歴戦の強者ギャバン。彼をして「絶望の世界すら見えた」と言わしめるほど、イムの深海契約によって不死身と化したハラルドの力は次元が違っていたのだ。圧倒的な武力と、ダメージを瞬時に再生する呪われた肉体。このまま城を出て国民に牙を剥けば、エルバフは一晩で壊滅していたはずだ。
しかし、ロキは覇王色の覇気と雷竜(ニーズホッグ)の力を極限状態で引き出し、不死身のハラルドを完全に沈黙させた。ギャバンやヤルルにとって、ロキの存在はまさにエルバフを滅亡の淵から引きずり上げた一筋の光であった。圧倒的な力を持つハラルドを超え、世界政府の目論見を物理的に打ち砕いたロキに対し、彼らは深い感服の念を抱いていたのである。
親殺しの業と、呪われた王子の涙
父の悲痛な想いに応え、介錯という最も辛い役目を果たしたロキ。しかし、その直後の彼の心境は決して穏やかなものではなかった。他にエルバフを救う方法が無かったとはいえ、自らの手で実の父親の命を奪ったという事実。巨大な武器から伝わる肉体を断つ感触と、溢れ出す言葉にできない感情。
エルバフの真の平和を目指し、誰よりも国を愛して人生を懸けた父・ハラルド。その彼が、最後は世界政府に精神を冒涜され、自国の兵士を殺させられた挙句、愛する息子に殺される結末を迎えた。ロキは父のあまりにも無念な最期に、大粒の涙を流した。

これが国を愛し抜いた結果かよ
あんまりだろう
このセリフには、理不尽な世界政府に対する激しい憎悪と、正義が報われない残酷な現実への絶望が凝縮されている。無惨な姿となったハラルドを隠すように、自らの服を脱いでそっと被せるロキの姿は、彼がいかに深く父を敬愛していたかを物語る非常に印象的な場面であった。
ロキと縁のある家族は、兄のハイルディンを除いてすべてこの世を去ってしまっている。毒殺された実母エストリッダの時はまだ幼かったため事情は異なっていたかもしれないが、彼を深い愛情で育て上げた育ての親イーダが暗殺された時、そして今回実父ハラルドを自らの手で葬った時、ロキは底知れぬ悲しみに暮れていた。
| 実父 | ハラルド(光輝の王。ロキの手によって介錯される) |
| 実母 | エストリッダ(何者かによって毒殺) |
| 育ての親 | イーダ(純血主義を重んじる一族によって暗殺) |
次々と愛する者を理不尽に奪われていく波乱の人生は、父親譲りの宿命なのだろうか。しかし、歴史上最も愛された「光輝の王」として国民から熱烈に崇拝されたハラルドとは対照的に、ロキはとにかく国中から嫌われる存在であった。
そして残酷なことに、今回エルバフの危機を救ったという彼の最大の快挙が国内に知れ渡ることはなかった。それどころか、これまでの彼自身の悪名が祟り、ハラルド王殺害という最悪の汚名を彼が一手に被ることになってしまったのである。周囲から誤解されて然るべき粗暴な悪事を繰り返してきたことはロキ自身も認めていたが、真実を誰にも言えず、国中から「王殺しの大罪人」として憎悪を向けられ続けることは、筆舌に尽くしがたい苦難であったに違いない。
強固な箝口令:父の尊厳を守り抜くための沈黙
絶命する直前、ハラルドはロキと周囲の者たちに遺言を残していた。
『この城で起きた事をありのままエルバフの民に伝えろ』
ハラルドは、自分が世界政府の甘言に乗って国を売り渡しかけた愚かさを包み隠さず国民に露呈することで、自らを犠牲にして国を救ったロキの信頼と評判を劇的に引き上げることを望んでいた。エルバフを救った英雄としての確固たる功績を機に、ロキに次期王の座を堂々と継いでほしいという親としての強い想いがあったのだ。
しかし、ロキはその遺言を明確に拒絶した。彼は、これまで生涯のすべてをエルバフの平和と繁栄に尽くしてきた「光輝の王ハラルド」の晩節の失態が国民に知れ渡り、民衆を深く失望させてしまうことを何よりも嫌ったのだ。国民にとって精神的な支柱である父の尊厳と美しい記憶を傷つけるわけにはいかない。ロキは、このまま黙っていれば状況証拠のすべてが自分への非難に向くことを完全に覚悟の上で、当事者であるヤルル、ギャバン、そしてシャンクスに対して強固な箝口令を敷いたのである。
ロキ
言えるわけねぇだろ・・・
いいかお前ら
今日ここで起きた事は誰にも喋るな
ロキの血を吐くような自己犠牲の想いを深く汲み取ったからこそ、ギャバンもヤルルも、そしてシャンクスも、各々がこの約束を固く守り抜いた。その結果、現代に至るまでの14年間、ウォーランド国内にアウルスト城の真実が漏れることは一切なかった。大犯罪者となったロキは死刑囚として鎖に繋がれたが、真実を知るヤルルが裏で庇い続けたことで、極刑が執行される事だけは回避されていたのである。
無念を晴らす復讐の船出と、14年越しの真実
事件後、ロキはエルバフの王座に就くことを明確に拒絶し、生き残った兵士たちを引き連れて海へ出る決断を下す。
ロキ
おれは海へ出るよジジイ
生き残った兵を全員連れて…
おれが王になって親父の思想を受け継ぐ未来が見えるか?
だが別の思いなら…成し遂げられる
この能力で親父と兵達の無念を晴らしに行く
ハラルドの暴走によって全滅したとされていた王家の兵士たちだが、実際には数名が生きており、ロキが彼らを引き連れていた。元々王家に忠誠を誓っていた兵士たちもまた、イムの支配によって無惨に散っていった同胞たちとハラルドの無念を晴らすため、進んでロキに付き従ったのだろう。
ロキが目指したのは、ハラルドですら敵わなかった巨大組織・世界政府への直接的な復讐である。その圧倒的な戦力差を知るヤルルは無謀すぎると全力で止めたが、ロキはそれを完全に無視した。一方で、ギャバンとシャンクスはロキの止まらない覚悟を理解し、黙ってその背中を見送った。
以降、6年前にシャンクスに力ずくで止められるまでの間、ロキは海賊として海で暴れ回ることになる。この船出の時点で、彼は「大悪党」として故郷エルバフに二度と帰れなくなる事、あるいは志半ばで野垂れ死ぬことも完全に覚悟していたはずだ。
しかし、運命は彼を再びエルバフの地へと呼び戻した。14年もの長きにわたり、死刑囚として汚名を被りながら真実を伏せ続けてきたロキ。だが現在、世界政府の魔の手が再びエルバフを直接蹂躙しようと迫り、彼は国を守るために再び戦う必要に迫られた。圧倒的な政府の侵攻を前に、巨人族の戦士たちを一つにまとめるため、ロキは兄であるハイルディンを説得する。そして、真実を知る証人であるギャバンが見守る中で、14年間封印し続けてきた「アウルスト城の悲劇」の真実を、ついに自らの口で語り始めたのである。
国を愛した父の遺志と尊厳を守るため、すべてを失い世界一の悪党となることを選んだロキ。彼が背負い続けてきた14年間の壮絶な孤独と覚悟が明かされた今、世界政府に対する怒りの矛先は、麦わらの一味と巨人族の共闘という形で、ついに一つになろうとしている。